【エピソード】すれ違いざまの「笑顔」に救われた、ある雨の日の話
まずは、私が以前体験した、忘れられない「笑顔」についてお話しさせてください。
それは、たしか真夏の夕立があった後のことでした。
その日の私はスケジュール調整がうまくいかず、「まだ事務仕事が残ってる」
と心の中で愚痴をこぼしながら、ひさしぶりに乗る夕方の通勤列車に乗車しようとしていました。
コンコースには発車時刻にあわせてチラホラ疲れた人が並び始めていました。
私の近くに並ぼうとしていたのは、小さなお子さんをふたり連れた若いお母さんでした。
ひとりは母親と手をつないだ幼い子、もうひとりはベビーカーで眠っているようでした。
夕方のラッシュアワーに差し掛かる時間です。
その親子連れを眺めながら、
『指定席が取れなかったのかな。
混雑時はベビーカーを畳まなきゃならないんだよね、、、
きっと、困るんじゃないかな…』と、なんとなく思ってました。
列車到着時間が近づき、濡れた傘やコートを持った人たちが列を作り始め・・・
お母さんは、ぐずるお子さんをベビーカーから下ろし、
起こされたお子さんだけでなく、手をつないでいたお子さんまでがぐずり始め、
お母さんは焦って『すみません、すみません』と周囲にペコペコ頭を下げつつ・・・
周囲では疲れた顔の人々が困り顔をしていました。
だれもが、『なんでこんな時間に子連れで乗るんだろう・・・』という表情でしたし、
私も正直、余裕がありませんでした。

その時です。 少し後ろの方にいた若い大学生風の男の子ふたりが、
そのお母さんとお子さんに、笑顔を向けて声をかけたのです。
『大丈夫だよ。手伝いましょうか。』
その声のトーンは、驚くほど柔らかく、温かいものでした。
『うちにも、ちいさい弟がいるんです。ははは!』と、もうひとりのお兄さんが満面の笑顔で。
その瞬間、お母さんがホッとしたような『ありがとうございます……』が小さく聞こえてきました。少し、涙声だったような。
そして不思議なことに、後ろに並んでいた私や他のお客さんのイライラした空気まで、
一瞬で浄化されたのです。
『ははは!』って、テレわらいなんでしょうね。(笑)私の顔も笑顔になってました。
男子学生の笑顔は、目の前の親子だけでなく、周囲にいた私たちの心にまで
あたたかい光を灯してくれました。
おかげで、一緒に乗車した皆にしばらく一体感があったような空気でした。
帰り道、道路は濡れて歩きづらかったですが、私の足取りは列車に乗る前よりも
ずっと軽くなっていました。
『私も明日、誰かにあんな顔を向けられるかな』。
そんな余韻が、疲れた心を温めてくれたのです。



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